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原状回復トラブル裁判の行方(京都地裁平成16年3月16日判決 貸主側見解)

2004年8月20日 23:38

リオ法律会計事務所 佐藤文明弁護士
(全国賃貸住宅新聞第628号より転載)

3月・6月と続けて家主敗訴

退去時に賃借人が自然損耗部分も含めて修繕を行う旨の特約(原状回復特約)の付された賃貸借契約について、岡持約が消費者契約法10条により無効であるという判決が、平成16年3月16日、6月11日と続けて京都地裁で出された。 消費者契約法10条は、「民法の定めより消費者の義務を加重するもの」で「消費者を一方的に害し」「信義則に反する」契約条項は無効であると定めている。   私は両事件について大阪高裁における控訴審の代理人という立場から、京都地裁の両判決の問題点と賃貸業者のとるべき対応策について考えてみたい。

1 義務加重条項にあたるか

まず3月16日判決は、「賃貸期間中の使用収益により目的物に物理的変化が生じることは避けられないところであるから、民法上、賃借人は、契約により定められた用方又は目的物の性質に応じた通常の用方に従って使用収益をした状態で目的物を返還すれば足りる」として、原状回復特約は「義務を加重するもの」であるとした。 6月11日判決も「賃貸借契約で予定されている通常の利用により賃貸目的物の価値が低下した場合は、賃貸借の本来の対価というべきものであって、その減価を賃料以外の方法で賃借人に負担させることはできないというべきである」としている。 建物の賃借人は善管注意義務あり  しかしながら、建物の賃借人は民法上「善良なる管理者の注意義務」(善管注意義務)をもって目的物を保管する義務があることに争いはない(民法400条)。この「善管注意義務」とは、自己の所有物に対する注意より重い義務であると言われている。そうすると、賃借人は建物を、建物の性質に応じた通常の用法で、いわばマイホームのごとく使用することは、善管注意義務に違反するものと言わざるを得ない。   したがって、そのような用法で使用した状態で目的物を返還すればよい、減価を賃料以外の方法で回収することはできない、という両判決の前提は、そもそも誤りなのではないかと思う。   そうであるとすれば、善管注意義務に反したか否かという困難な訴訟を避けるために、返還時にどのような状態で返還すべきかを当事者が予め合意しておくことは何ら「義務を加重するもの」とは言えないのではないだろうか。

「貸さない自由」をどう解釈するか

2 消費者を一方的に害するか


3月16日判決は、①契約締結時に賃借人が自然損耗等による原状回復費用を予想することが困難、②自然損耗の有無、原状回復の要否およびその額は明け渡し時でないと分からない、③自然損耗を争おうとすれば訴訟を提起せざるを得なくなる、④賃借人は賃貸人の提示する契約条件をすべて承諾して契約するか契約しないかのどちらかの選択しかできない、という4点をもって原状回復特約は「消費者を一方的に害する」としている。
しかし、①②は賃貸人にとっても同じことであり、むしろ建物を使用する賃借人こそが自然損耗の発生を左右できる立場にいるのではないかと思う。③に関しては、原状回復特約が自然損耗か否かについての個別具体的な争いを避け画一的に処理し紛争を未然に防止するための条項であることをまったく理解していない。④についても、賃貸人には契約条件の折り合わない賃借人には建物を貸さない自由があることを忘れている。世間を見れば、保険契約や電気・ガス・水道等の供給契約、旅客運送契約など契約するかしないかの自由しかない契約はごまんとあるではないか。これらがすべて消費者を一方的に害するとは到底思われない。

原状回復コストの予測は可能か

他方、6月11日判決は、①「賃貸人が必要と認めたとき」に原状回復義務が発生するとするのは客観性を欠き公平でない、②原状回復単価表は「〇〇円より」と単価の下限が善かれているのみで上限の定めがない、③賃借人は契約するかしないかの自由しかない、④賃貸人は自然損耗等による原状回復費用を予測して賃料額を決定することが可能である、よいう4点をもって「消費者を一方的に害する」としている。   このうち、①②は、賃貸人としてさけるべき条項だったように思われる。常に壁クロス・襖を張り替える、畳表を取替える、といった一義的に明確な契約にしておれば、①のような批判は避けられたといえる。また、原状回復単価表も、今後は上限を決めておくという対応をすべきであろう。③が失当であるとい うべきことはすでに述べたとおりである。   ④について、原状回復費用を予測して賃料額を決定することが可能だからといって、「そうしなければならない」という理由はあるのだろうか。「契約自由の原則」は近代法の基本原理である。これは自分をとりまく契約関係は自分が白由に決められるという市民法思想に基づいている。損耗回復費用を毎月の賃料に上乗せするという選択肢はあるかもしれないが、後で実費精算するという選択肢もあるのである。   これが否定されるべき理由がよく分からない。実際にも、一定期間以上住み続けている賃借人にとっては、毎月損耗回復費用を上乗せされるよりも、最後に実費で精算してもらうほうが割安なのである。そうであると、④が「消費者の利益を一方的に害する」理由になるというのはよく分からない理屈である。

それぞれ9月に控訴審口頭弁論

3 信義則に反するか

3月16日判決は信義則に反するかという論点にまったく触れておらず、この点であきらかに理由不備の判決である。   他方6月11日判決は上記の各事情にかんがみれば信義則に反するといえるとしている。   しかし、繰り返しになるが、誰といかなる契約を結ぶかは当事者の自由なのである。丁寧に建物を使ってくれる人、「立つ鳥跡を濁さず」というように最後にきれいに掃除修繕して出て行ってくれる人としか契約を結ばないという自由が賃貸人にはあるはずである。それを条文化することが、なぜ信義則に反するので あろうか。   原状回復特約がいやならば、賃借人はそれがない物件を選べばよいのである。原状回復特約のない物件は、あふれるほどある。   3月16日判決に対しては本年9月8日に、6月11日判決に対しては9月16日に、それぞれ控訴審の第1回口頭弁論が開かれる。控訴審の判決に注目したい。


佐藤文明弁護士 連絡先

リオ法律会計事務所
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電話03-3502-8585 ファクス03-3591-8120

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