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平成19年(ワ)第1793号 更新料返還等請求事件 第3回法廷  原告弁論要旨

2009年9月 7日 23:56

※更新料問題を考える会ブログより
まとめ記事はこちら

平成19年(ワ)第1793号 更新料返還等請求事件 平成19年11月16日 第3回法廷

原告弁論要旨

第1 はじめに
●1
建物賃貸借契約における更新料支払い条項は,消費者契約法ないし公序良俗に反し,無効である。今回提出の原告準備書面では,消費者契約法の趣旨,建物賃貸借契約における不当条項排除の経緯,更新料の発生起源・経緯,更新料の不当性・不合理性を述べ,あわせて被告準備書面についても反論を行った上,更新料支払条項の消費者契約法10条該当性,公序良俗違反について述べる。

●2
なお,先に1点,被告は「行き過ぎた消費者運動」と主張するが,不当な条項を無効とすることは時代の要請であり,本件原告の主張も消費者の利益擁護という時代の要請に沿ったものである。この「行き過ぎ」論は,原状回復条項の不当性が争われた事件でも,事業者から主張されたが,原状回復条項は,消費者契約法により無効との結論が出されている。

第2 消費者契約法の趣旨と不当条項の判断について
●1

そもそも,消費者契約法1条は,事業者と消費者の交渉力の格差の存在を社会的事実として認め,この格差から消費者利益を不当に害する契約条項を無効とすることを宣言している。
すなわち,契約当事者が契約条項を理解して契約したとしても,契約条項自体に客観的な不当性がある場合には,消費者契約法上無効な条項となる。守るべき契約と言えるかどうかが,消費者契約法上,問題になるのである。
●2
そして裁判所は,この点について積極的に審査を行い,不当条項の無効を宣言すべきである。
消費者契約法10条は,消費者に不当な不利益な条項を無効とする旨を規定するが,不当条項の具体的内容を規定していない。
従って,裁判所は問題となっている契約条項が消費者契約法10条における不当条項に該当するか否かを積極的に審査し,不当条項は無効であると宣言することによって,消費者保護の重要な役割を果たす義務がある。

第3 建物賃貸借契約条項において不当条項が無効とされてきた
裁判例の流れ
●1

建物賃貸借においては,従前から,不当条項が用いられ,その時代時代において,解釈,消費者契約法10条違反,公序良俗違反などにより,その不当条項の効力が否定されてきた。
本件で問題となっている更新料条項は,建物賃貸借において,まさにその効力を否定すべき不当条項の問題の一環である。
●2
裁判例で不当条項とされてきたものとして,まず,賃借人に退去時に自然損耗を含む原状回復を要求したり,賃料に原状回復費用は含まれないなどとする原状回復条項がある。原状回復条項については,最高裁判決が,不当な原状回復条項の効力を意思解釈のレベルで否定した。もっとも,この意思解釈も,結局は特約の不当性故に行われたものであるといえよう。
また,大阪高裁判決も,不当な原状回復条項を消費者契約法10条によって無効であると判示している。
●3
さらに,敷引特約についても,神戸地裁,大津地裁,京都地裁,大阪地裁,最近奈良簡裁でもだされたようであるが,それぞれの裁判所において,消費者契約法10条により無効とされ,関西地域における裁判実務において,敷引特約は無効であることが定着したといえる状況にある。
●4
事業者と消費者の情報・交渉力の格差から不当な契約条項を無効とする消費者契約法の下では,更新料支払条項も,原状回復条項,敷引条項などと同様,従前から建物賃貸借契約に蔓延している不当条項なのであり,その不当性故に消費者契約法10条により無効と宣言されなければならない。


第4 更新料条項の不合理性
●1 更新料とは

更新料という概念は,法律にはなく不動産賃貸借契約実務の中で発生したものである。したがって,その定義も「賃借権の存続期間が満了した場合に,契約の更新に際し授受される金銭」という程度のもので,法的性格を含んで定義づけられることはない。
借地借家法は,法定更新を認めていることから,更新料の徴求は予定していない。ところが,私的自治,契約自由の原則の名の下,更新料条項は有効だという前提で,賃借人から賃貸人は更新料を徴求してきたのである。
本件では,この更新料条項が不当条項ではないのかを問う裁判である。
●2 更新料支払条項の実際
更新料の発生経緯について,必ずしも明らかではない。借地更新料については,地価が高騰を始めた昭和30年ころから,東京地方でその授受が急速に広まったといわれている。

このように,昭和30年ころに更新料が発生したのは,地価の高騰が賃料に反映されていないため賃料の値上げをしたかった賃貸人が法律上の手続きである賃料増額請求権があるにもかかわらず,その手続きをとることなく更新料という名目で金銭を受け取ることによって脱法的に賃料の値上げを図ったことが原因である。これは,更新料の徴求がなされている地域が東京など地価が高騰していた地域に集中していることと合致する。

このようなあいまいな更新料が一部地域で行われているには,貸主にとって,大きな利益になるからであるし,その実現は借主との地位の不平等性からくる交渉力の格差にあることは言うまでもない。

さらに無視出来ないのは,不動産管理業者の存在である。管理業者が入ることで賃貸人と賃借人の人的関係が希薄になり更新料の請求がしやすくなること,契約期間も1年や2年など短期に設定することで契約更新の回数も増えることから更新料を取ることが事業として採算の取れるものになったため管理業者が自己の利益のために積極的に更新料の導入を進めたという背景がある。管理業者においては,仲介手数料は,宅地建物取引業法における規制があるのに比べ,更新料についてはそれがないため,貸主との関係で自由に決めることが出来るメリットがある。
これに対し,賃借人側には何のメリットもない。

学説においても,更新料の法的性質について厳密に検討した学説では,更新料の中でも特に建物賃貸借における更新料支払義務については経済的,法的根拠がないとしてその効力を否定する学説があった。民法学の権威である星野英一東京大学名誉教授も「合意といっても,実際は,家主の圧力によって借家人が事実上承認せざるを得ないのである。借地と異なり,借家の期間は短期であるから,果たしてそれらに借地におけるような合理性があるかは,かなり疑問である。」とした上で,「更新料も,借家が短期であることから,あまり合理性がない。従って,借地におけると異なり,合意で更新されたときに,家主は更新料の請求権がないと解するのが妥当である。」として,建物賃貸借における更新料支払条項の効力を否定している。

更新料の法的性質論としてこれまで議論されてきた,
・1 賃料の補充説
・2 異議権放棄の対価説
・3 賃借権強化の対価説
などは,もともと脱法行為を目的として発生し,何ら経済的,法的根拠のない更新料の有効性を理屈づけようとしてひねり出された後付けの理由にすぎないのである。

また,従前の更新料の性質論における議論にとしては,契約条項にあることから何らかの合理性を与えようとする観点のものが多くあり,消費者契約法が制定された観点からみた不当条項に該当するか否かの視点・議論は全くなされていない点は注意しなければならない。消費者契約法が制定された現在においては,更新料支払条項は,従前の更新料無効説が指摘するとおり,その不合理性故に無効というべきである。
●3
更新料の法的性質について,被告は
・1 賃料の補充
・2 異議権放棄の対価
・3 賃借権強化の対価
という複合的性質を有すると主張するが,いずれも何ら合理性はない。

▼(1)
まず,
・1 賃料の補充説
については,賃料補充の合理性を裏付ける前提自体が存在しないこと,1年や2年の短期間の契約において賃料の不足分が生じることは考えにくいこと,期間の長短を一切考慮せずに一定金額で算定していることの説明がつかないこと,賃料の不足が生じた場合には賃料増額請求による補充が可能であること,法定更新の場合に更新料が支払われないことの説明がつかないことからして合理性がないのは明らかである。
被告は,賃貸人としては「権利金」・「礼金」・「更新料」なども含めた全体の収支計算を行ったうえで毎月の賃料額を設定するのが当然であるから,設定賃料と本来受ける経済賃料との差額を更新料による補充することは合理性があると主張しているが,賃貸人が被告主張の収支計算の下に賃料設定を行ったとしても,それは賃貸人の勝手な皮算用であり,更新料が賃料補充の性質を有することの合理性が認められることにはならない。

▼(2)
また,
・2 異議権放棄の対価説
について,被告は,更新料が異議権放棄の対価であるとか異議権行使に伴う紛争を回避することを目的とするものであると主張するが,そもそも異議権が発生するか否かにかかわらず,一律に更新料が徴収されていることの説明がつかないし,異議権の行使時期と更新料の支払時期との時間的先後関係を全く無視している。すなわち,通常更新料は,賃貸借契約期間満了のころに当事者間で合意更新をすることによって支払われるものであるところ,借地借家法上,賃貸人の異議権は期間満了の6ヶ月前までに行使しなければならない。したがって,通常合意更新がされる場合というのは,既に賃貸人による異議権行使の期間が徒過しており,異議権が発生しないことが確定している場合がほとんどなのである,したがって,もはや異議権の放棄とか異議権行使に伴う紛争回避ということは全く問題となる余地はないのである。
▼(3)
さらに,
・3 賃借権強化の対価説
について,被告は,同旨の判決として東京地裁平成17年10月26日判決を挙げる。しかしながら,本件賃貸借契約においては,賃借人が更新料を支払って賃貸借契約を更新したとしても,第15条3項において,賃貸人が6ヶ月前に通知することによって賃貸借契約を解約することが認められているから,賃借権強化の対価ということは,少なくとも本件更新料には当てはまらない。
そもそも本件のような賃貸用のアパートやマンション(収益物件)の賃貸借契約で,かつ更新期間が1~2年といった極めて短期間での更新が定められている賃貸借契約においては,仮に法定更新がなされ期間の定めのない賃貸借契約となった場合でも賃貸人の正当事由に基づく解約が認められるケースはほとんどない。

とくにこれが更新期間が1~2年といった短期の賃貸借契約の場合には,その実益はゼロに等しい。1年更新の契約を例にとれば,仮にこの契約が法定更新された場合に,その後わずか半年の間に解約申入れの正当事由が発生するなどいうことは現実的にはほとんど有り得ない。

したがって,更新期間が1~2年といった短期の賃貸借契約の場合には,合意更新によって賃借権を確保するという実質的な意味は全く認められず,更新料の支払に賃借権強化の対価という性質が含まれると考えることは,明らかに契約当事者の合理的意思に反する。

なお,被告が引用する前記東京地裁平成17年10月26日判決の事例は,更新期間が2年で,更新料が賃料1ヶ月分とされていた事案であり,同判決は,「本件更新特約に定める更新料の金額が1か月分の賃料相当額とされている点にかんがみて」更新特約が消費者契約法等に反しないと判断しているところ,その判断自体も不当であるが,本件では,更新期間1年で,更新料が月額賃料の2.22倍にも及ぶのである。
▼(4)
以上より,被告が主張する更新料の法的性質は,いずれも,契約当事者の意思に反し,全く合理性がない。

更新料は,賃貸人が,情報力や交渉力の格差を利用して,賃借人に十分な法律知識がないことを奇貨として,法律上根拠のない異議事由や解約事由をちらつかせることによって,半ば強制的に徴収している金銭と言っても過言ではないのである。
この点,神戸地判平成17年7月14日は,「賃借人のみが賃貸借契約の更新料を負担しなければならない正当な理由を見いだすことはでき」ないと判示している。
●4 その他の更新料の不合理性
▼(1)
全国的には借家契約における更新料は例外的で,東京周辺と京都程度で徴収されているにすぎない。決して社会的な承認を得ているものではない。

▼(2)
国土交通省が推奨する賃貸住宅標準契約書においても,貸主が更新料を取得する旨の規定は置かれていないし,実際,公営住宅では更新料はとられていない。
▼(3)
公庫物件では,更新料は不当な負担で,その請求は犯罪行為であった。
▼(4)
更新料は,賃貸契約の広告において表示されていない。負担の具体的内容な存否を秘して,割安感を与えた上で消費者を勧誘する方法は詐欺的ですらあり,不当極まりないものである。
▼(5)
更新期間が1年や2年の賃貸借契約の場合,法定更新と合意更新との間には何ら実質的な差異がないにも関わらず,法定更新の場合には更新料を全く支払う必要がないのに対し,合意更新の場合には更新料として月額賃料の1,2ヶ月分といった重い負担を強いられることは明らかに均衡を失している。

●5
以上のとおり,更新料支払条項にはみじんの合理性も見出されないのである。

第5 消費者契約法10条による本件特約の無効について
●1
まず,消費者契約法の立法趣旨からすると,消費者契約法10条は,例え合意が成立していたとしても,消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ,「消費者の利益を一方的に害するもの」は無効とするものであるから,被告が主張するような,「原告,被告の合意によって契約の一部となっているのであるから,その法的性質論としては,一応の合理性が説明できれば(言い換えれば明らかに不合理であって一方的に消費者の利益を害するものでなければ)それで足りる」という理解は誤りである。このことをまず指摘しておく。
●2
既に述べたとおり,更新料支払条項には全く合理性はない。

被告は,更新料が社会的承認を得ていると主張するが,既に述べたとおり,更新料条項は全国的には東京周辺と京都程度の一部地域で行われているにすぎず,しかも,賃貸人や管理業者に押し付けられたものであるから,到底社会的承認があるとはいえない。また,広く行われていれば,有効となるものではない。この点は,大学の学納金を返還しないことが広く行われていたが,消費者契約法で無効とされたことを考えれば明らかである。

被告は,立法者の意思として借地借家法の改正過程を主張するが,本件で問題となるのは借地借家法改正の後の成立した消費者契約法であるから的はずれな主張である。

被告は,情報の格差についても主張している。その内容自体も不当であるが,何より,消費者契約法の趣旨の大きな柱である「交渉力の格差」について,前回準備書面では全く検討されていない。仮に賃借人が,更新料特約を賃貸人契約の条項から削除しようとしても,賃貸人がかかる削除要請に応じなければ,削除することはできない。消費者である賃借人と,事業者である賃貸人との間の圧倒的な交渉力の格差のため,賃借人は賃貸人に対して,更新料特約削除の交渉ができないまま,一方的に同特約を押し付けられてきているというのが実情なのである。被告が主張しなかったか,できなかった,この「交渉力の格差」を考えれば,押しつけられた更新料支払条項が無効であることは明らかである。
●3
以上のとおり,消費者契約法10条を正確に解釈すれば,マンション,アパート等建物賃貸借契約の更新料支払条項は,消費者契約法10条により無効と判断されるべきである。

第6 公序良俗による無効
以上の更新料支払条項の不当性からすれば,公序良俗によっても無効とされるべきである。

第7 まとめ
本件更新料支払条項は,裁判所によって無効と宣言されるべき条項であり,現状では,裁判所しか,無効とできないものである。1年更新で2ヶ月分の賃料を超えるという極めて不当な本件更新料支払条項について,裁判所が無効と宣言されることを確信しているものである。

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