平成19年(ワ)第1793号 更新料返還等請求事件 第3回法廷  被告準備書面

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※更新料問題を考える会ブログより

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平成19年(ワ)第1793号 更新料返還等請求事件 平成19年11月16日 第3回法廷

被告準備書面

第一 更新料の適法性

●1
更新料は,賃貸借契約当事者がその支払いにつき合意をし,約束した更新料条項に基づく金員である。更新料条項は,実際に借主の支出かつ貸主の収入と合意されている条項であり,賃貸借契約条件において,賃料等と並んで重要な契約条件である。
更新料は法的性質として,賃料の補充,更新の地位(借家権)確保又は強化の側面を複合して有しており,公序良俗に違反しないばかりでなく,消費者契約法10条にも勿論違反しない。
●2
原告は,本件更新料返還訴訟について,「まさに時代は消費者利益の保護を標榜しており,時代の流れに沿ったものである」と主張している。更に原告は,「更新料条項は合理性がなく,その徴求は脱法的,欺瞞的,詐欺的であり,その不当性は驚くばかりで,消費者契約法10条,公序良俗に違反して無効である」と主張している。
しかしこの見解は,更新料についての実情把握,評価を誤っており失当である。
●3
現代社会が消費者保護の流れにあることは事実であるが,行き過ぎた消費者保護がなされてはならない。消費者保護だけでなく,契約者の自己責任,私的自治,契約の自由,取引の安全,市場原理も,消費者保護と調和させて図らなければならない。
●4
消費者契約法制定当時から,消費者契約法10条の拡大適用については,懸念が示されていた。
▼(1)
第一に,契約の目的や対価等,契約の中心部分を定める条項の不当性が問題となっている場合には,消費者契約法10条の適用対象とならないとする見解も有力に示されている。その見解の理由としては,第1に契約の主要な目的や価格に関する事項は,市場に委ねられるべき事項である,第2に契約締結過程で消費者に十分な情報提供が行われるようにすれば弊害はない,第3に著しい対価の不均衡については公序良俗違反(民法90条)で救済できることなどが理由とされている。
▼(2)
第二に,個別交渉を経た契約について,消費者契約法10条の適用対象とならない見解も有力に示されている。その見解の理由として,第1に個別交渉があるときにまで不当条項規制を行うのは自己決定に基づく自己責任という基本原理と相容れないこと,第2に契約締結過程で消費者に十分な条項提供が行われるようにすれば弊害はないこと,第3に個別交渉を経た契約についても公序良俗違反(民法90条)による救済は可能であることなどが理由とされている。
●5
最高裁判所平成18年11月27日第2小法廷判決(いわゆる学納金判決)は,学納金不返還特約等の消費者契約法10条該当性について,「前記のとおり,不返還特約のうち平均的な損害を超える部分に限って消費者契約法9条1号によって無効とされるのであり,前記の不返還特約の目的,意義に照らすと,同号によって無効とならない部分が,同法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」に該当しないことは明らかである。また,入学金の納付の定めは,入学し得る地位を取得するための対価に関する定めであるから,同条にいう「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」には該当せず,同条適用の要件を欠くものというべきである。」と判示している。すなわち,消費者契約法10条は,そもそも対価的給付条項についてはその射程外であり,対価性の著しい不均衡については,民法90条にその解決を委ねているのである。
●6
本件訴訟は,中心条項・個別交渉条項についての消費者契約法10条の適用の懸念が的中している事案である。
更新料条項は,まさに使用収益及び更新の地位(借家権)の確保及び強化の対価を定める中心条項であり,また個別交渉を経て締結される個別交渉条項である。両条項については,消費者契約法10条が適用されるべきではなく,適用されるにしても,その要件該当性の判断は他の場合に比して厳格に判断されなければならない。
●7
原告は,消費者運動を標榜するあまり,その進路を逸脱している。原告は,本来消費者契約法10条を適用とすべきではない更新料条項まで適用を主張し,無効を主張している。原告は,ただ消費者保護一辺倒の考えを主張するだけでなく,冷静に更新料条項の実情を見るべきであるし,また契約者の自己責任,契約の自由,取引の安全,市場原理にも考慮を及ぼすべきである。
●8
更新料条項は遅くとも昭和40年代から約40年以上にもわたって広く社会で行われ,民間の各賃貸当事者だけでなく,行政機関,司法機関も活用してきたもので,社会的に承認された条項,制度である。その無効性を主張している人達は,社会全体から見れば,賃貸借当事者のうち突出したごく一部の人達に過ぎない。更新料条項に消費者契約法10条を適用主張することは,社会的にも支持を得られていない事項である。

 

第二 更新料の社会的承認と無効とする弊害
●1
借家における更新料条項は原告も認めるとおり,最近になって普及してきたものではなく,遅くとも昭和40年代から広く用いられてきている。また,地域的に見ても,更新料条項を使用している地域は,北海道から沖縄までの都市部で広い範囲にわたる。更新料条項は,東京・京都だけでなく,北海道・関東・長野・愛知・福岡・沖縄で広く今なお採用されている。消費者契約法が平成13年4月1日施行されているが,すでに同法施行から6年6ヶ月以上も経過しているにもかかわらず,更新料条項は今なお広く用いられている。勿論,当然のことながら,更新料条項のない賃貸借契約も,これら更新料条項が用いられている地域においても相当数をしめ,借主は更新料条項のない契約も選択できるようになっている。

●2
更新料条項は,契約当事者間で賃貸借契約時に合意されるだけでなく,企業・行政・司法の場でも異議なく認められてきた。
▼(1)
例えば,企業では,従業員のためにその賃貸物件について,更新料の補助制度を実施している企業もある。

▼(2)
行政においては,「1個のおにぎりも買えない」と評されるほど扶助認定が厳しいとされる生活保護においても,住宅扶助として更新料の扶助がなされてきている。生活保護法14条では住宅扶助を規定し,同法33条では住宅扶助を金銭給付によって行うことを定めている。それを受けて,生活保護法による保護の基準及び生活保護法による保護の実施要領で,更新料扶助が制度化されている。
京都市の場合,平成19年4月1日現在,生活保護法による更新料扶助は,6人まで1回あたり5万5000円,7人以上1回あたり6万6000円支給されている。
▼(3)
また,法の番人たる裁判所の司法の分野においても,更新料条項は活用されてきた。裁判所における調停条項,和解条項に,借家の更新料条項は広く活用されてきたことは,公知の事実である。
さらに,公証人役場における建物賃貸借契約に関する公正証書の作成及び私製の賃貸借契約の認証においても,更新料条項は広く用いられてきている。

●3
このように社会において,更新料条項が,時間的にも地域的にも分野的にも広く活用されてきたことは,紛れもない事実である。原告は,民間における更新料条項の使用については無効を主張しているが,生活保護法による更新料扶助,裁判所における調停条項,和解調書等での更新料条項の使用及び公証人役場における公正証書等の更新料条項の使用については何ら言及していない。原告はこの点について,自己の主張の都合の悪い部分であるので,意図的に沈黙していると考えられる。更新料条項は,実際には,上記に述べたとおり社会的実態としては建物賃貸借で広く根付いた条項であり,行政,司法という国家機関でも認められてきている条項である。

●4
そのように社会的に根付き,承認されてきた条項を,消費者契約法10条が施行されたからといって,軽々に適用すべきものではないことは論を待たない。原告の主張を推し進めると,民間だけでなく,行政,司法の分野においても,居住用建物賃貸借における更新料条項の使用は消費者契約法10条に違反するので即時にやめるべきとの結論に至ることになる。

●5
即ち,更新料条項を消費者契約法10条違反で無効だとすると,貸主は借主に対し,授受された更新料を不当利得として返還しなければならないことになる。また,生活保護による更新料扶助支給も消費者契約法10条違反なので,制度として廃止になる。さらに,消費者契約法施行後締結された和解調書,調停調書,公正証書等の更新料条項は無効となり,その効力は認められず,その和解調書,公正証書等に基づき授受された更新料も返還すべきものとなるし,それらに基づく更新料支払いについての強制執行も勿論許されないことになる。
●6
空家でない民間借家の数は,全国で約900万戸あるとされている中で,仮に全貸家物件中10%で更新料条項が使用されていれば,約90万件の契約に影響が出ることになる。貸家物件中20%とすると,約180万件の建物賃貸借契約の更新料条項に影響が生ずることになる。
それだけ社会で広く用いられている更新料条項を無効とするならば,契約当事者のみならず,関係当事者に大混乱の事態を引き起こすことは必定である。

●7
原告は消費者運動を標榜しているが,実は,更新料条項の無効主張は消費者保護にも反する結果となる。ただでさえ,支給認定が厳しい生活保護の分野において,住宅扶助の更新料支給が廃止されると,その直撃を受けるのは入居者たる消費者である。更新料扶助が打ち切られるとなると,生活保護受給者は,更新料物件よりも高く設定される家賃の物件を借りざるを得ない。他方,生活保護受給者の家賃扶助額には限度があるので,生活保護者はより生活を切り詰めて家賃を支払わなければならなくなる。(京都市の場合の家賃の住宅扶助は月額1人世帯の場合は4万2500円,6人まで5万5000円,7人以上6万6000円を限度に支給されている。)
つまり,原告の更新料条項無効の主張は,消費者保護を目指すことを標榜しているものの,実は木を見て森を見ない結果となるものであり,一番に保護されるべき,社会的弱者の保護を切り捨てる主張となっている。
●8
以上のとおり,更新料条項が消費者契約法10条に違反するという主張は,社会の実態を無視して消費者保護に偏りすぎたものであり,社会に大混乱及び社会的弱者の保護の切り捨てをもたらす主張であり,結論としてとり得ない主張であることは明白である。


第三 更新料裁判の今までの裁判例
●1
今までの裁判例では,更新料条項の有効性を基本的に承認している。更新料裁判も今までいくつかなされてきているが,その多くは,更新料条項があいまいな文言であったために合理的意思解釈をめぐって争われてきたもので,明確な文言の更新料条項を無効としたものは,その金額が余りにも法外であり,民法90条違反により無効としたものが一部あるに過ぎない。

●2
消費者契約法10条違反との主張の裁判はほとんどないと考えられるが,被告が把握し本件訴訟に提出している東京地方裁判所平成17年10月26日判決,明石簡易裁判所平成18年8月28日判決では,いずれも更新料条項は消費者契約法10条に違反しないとの判断がなされている。

●3
つまり,昭和40年代から更新料条項が用いられてきた時間的経過及びその何百万事例といった更新料条項を含んだ契約数からすれば,更新料条項の有効性が争われた事例は,ごくごく一部の借主の事例でしかない。
更新料条項の消費者契約法10条違反を理由とする無効主張は,一部の借主から主張されているに過ぎず,社会的に支持されていない。社会的に支持されているのなら,消費者契約法が平成13年4月1日に施行された時間的経過及び全体の契約数からして,もっと多くの訴訟がすでに提起されているはずである。

 

第四 本件訴訟の争点
●1
本件訴訟の争点は,本件更新料条項が民法90条の公序良俗違反に該当するかどうか,消費者契約法10条違反に該当するかどうかである。

●2
借家における更新料条項は,昭和40年代から社会で広く行われ,判例上も民法90条違反としたものはごく僅かしなかい。更新料条項が月額賃料の5倍以上の場合を定めた場合などは,暴利行為で公序良俗違反とされる余地もあるが(東京地判S56.11.24,判タ467号122頁),2~3ヶ月程度では公序良俗違反には該当しない(東京地判S54.9.3,判タ402号120頁)(東京地判S61.10.15,判タ106頁)ことは,各裁判例の認めるところである。

●3
本件賃貸借契約での更新料支払い合意は,原告主張のように,決して法外な金額の更新料支払いが約束されているものではない。
▼(1)
本件建物は,京都市左京区下鴨の,京都でも有数の良好な閑静な住宅地に所在し,鉄骨ブロック4階建の昭和58年1月31日新築の建物の一部であり,その間取り,設備としても,電気・ガス・水道・6帖・台所・トイレ・給湯設備・冷暖房設備ありの物件である。

▼(2)
その中で,本件建物賃料は4万5000円と下鴨地区の他の物件と比して比較的低い賃料設定がなされている。本件建物賃料の月額賃料は5万円でも可能な物件であるが,更新料併用方式の賃料設定のため,月払い賃料は4万5000円で,更新料が1年毎に10万円と設定されている。
▼(3)
更新料の多い少ないは単純に月額賃料の比較で決められるべき問題ではない。月額賃料が比較的低い場合は,更新料を一定金額で決めていれば,月額賃料に対する割合は,跳ね上がることになり,月額賃料が増額改訂されればその割合は少なくなる。従って,賃料額及び更新料額の絶対的な金額そのもので判断がなされなければならない。
▼(4)
本件では,純粋に月額賃料との比率で見ても2.22ヶ月であり,上記判例からしても許容範囲と言うべきである。
▼(5)
従って,本件でも更新料条項が民法90条の公序良俗違反に該当しないことは明らかである。
●4
本件で問題とされるべきは,本件更新料条項が消費者契約法10条に違反するかどうかである。この点については,消費者契約法が平成13年4月1日に施行されているので,被告としても裁判所に対し真正面から本件更新料条項が消費者契約法10条に違反しないとの判断を下していただくことを求めるものである。その際に注意されるべき点は,本件更新料条項が消費者契約法10条違反に該当するかどうかは,あくまで消費者契約法10条の要件に即してなされるべきであるという点である。
●5
▼(1)
消費者契約法10条は,「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって,民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは,無効とする。」と定めている。
▼(2)
つまり,本件更新料条項が消費者契約法10条違反と判断されるには,本件更新料条項が,前段要件の「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」にも,後段要件の「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」にも両方該当する場合でなければならない。
▼(3)
ところが,原告の平成19年11月9日付準備書面では,本件更新料条項の消費者契約法10条の要件の該当性判断であるべき論述が,随所で更新料の不合理性判断にすり替えられて論述されている。消費者契約法10条該当性の要件は,前段要件,後段要件の2つの要件であり,原告がすり替え主張している更新料条項の不合理性という要件ではない。不合理性という要件は,消費者契約法10条の明文に反するだけでなく,曖昧かつ多義的で,不適切である。
▼(4)
本件更新料条項の消費者契約法10条の該当性は,本件更新料条項前段要件,後段要件とも満たすものであるかどうか判断されなければならない。


第五 消費者契約法10条前段要件について
●1
建物賃貸借契約においては,建物の使用収益の対価として契約当事者間で賃料の支払いが合意されることは言うまでもない。契約当事者間で,その賃料を取り決める場合に,月払い賃料一本で取り決めることもあるし(「月払い賃料一本方式」という),賃料の年払い,あるいは一括払いも取り決めることがある。さらに,賃料以外に,更新料を併用して取り決める場合もある(「更新料併用方式」という)。更新料は,月払い賃料に加えて更新時に更新料という賃料を併用して支払う,賃料支払いの一方式として理解されるべきものである。

●2
即ち,借主においては,賃貸借契約を締結する前に更新料が条件提示されている場合は,どの借主も月払い賃料に加えて更新時に更新料の支払いを考慮して賃借物件を選択している。また,貸主においても,更新料の条件提示をする場合は,賃貸借契約が締結されれば,月払い賃料に加えて契約期間終了後の賃貸借契約継続に対して更新料が一時金として入ってくることを前提として条件提示をしている。借家において,更新料条項が昭和40年代から採用され,社会で広く更新料の授受がなされてきたのは,契約当事者が更新料の法的性質を意識しているにせよ意識していないにせよ,賃料支払いの一形式として了解してきたからに他ならない。
●3
原告の主張は,消費者契約法の適用のある個人の居住用の建物賃貸借契約では,月払い賃料一本方式の契約方式しか認めないとの主張と考えられるが,この主張こそ,消費者運動の政治的スローガンであり,法的には何ら根拠のないものである。
●4
個人の居住用建物賃貸借においても,必ず月払い賃料一本方式で賃料を決めなければならないというものではない。月払い賃料一本方式で賃料設定をすると,確かに物件ごとの賃貸条件を比較しやすいという利点がないではないが,他方,画一的,一面的な契約条件しか設定できず,契約当事者及び物件の多様なニーズに応ずることのできないというデメリットが生ずることになる。私的自治・契約自由の原則から,契約当事者のニーズに応じて創意工夫された各種の賃料支払い方式が認められるべきである。
●5
更新料条項が用いられる合理性については次のとおり例を挙げることができる。
▼(1)
更新料併用方式の条件設定の場合,月払い賃料一本方式の場合よりも月額賃料は低く設定されている。(つまり,更新料併用方式の物件は更新料が存在するので,月払い賃料一本方式の物件よりも月払い賃料を下げ,その部分を更新料で補充するということにしている。)そのため,更新料併用方式の賃料支払方式であれば,借主としては,契約当初から更新までは低く設定された賃料で借りることができ,仲介手数料,敷金等も少なくてすみ(月払い賃料を基準に仲介手数料,敷金の金額が決定されることが多いため),初期の支払費用が少なくてすむので,入居しやすいという利点がある。
▼(2)
あるいは,契約締結時には収入が少ないが,更新時までには収入の増加が見込める借主も存在する。そのような借主にとっては,月払い賃料一本方式に比して月払い賃料を支払いやすく,しかも更新時には収入が増加しているので更新料も容易に支払うことができるという利点がある。
京都で多く見られる大学生の賃借の場合も,大学入学後のアルバイトにより期間経過後には支払いが容易になるという事例が多数ある。勤務をし始めた社会人の場合もそうである。
▼(3)
更に,更新前に退去を予定する学生,短期勤務者,臨時教員等の短期間の借主にとっては,更新料併用方式の物件というのはメリットがある。つまり,短期借主にとっては,月払い賃料一本方式の物件よりも,低い賃料を毎月支払うだけで,更新料支払い前に退去をするのであるから,更新料の支払いをしなくてすみ,当該物件の居住期間の総額支払賃料が月払い賃料一本方式の場合と比べて少なくてすむというメリットがある。
▼(4)
加えて,企業,団体の社宅や生活保護での住宅扶助などで,更新料に対して補助がなされている場合が世の中には多数存在する。その場合は,月払い賃料の負担者は借主であるが,更新料の負担者は企業,団体,国等の更新料の補助をしている者であり,月額賃料と更新料では負担者が異なっている。この場合は,借主にとっては,更新料は補助金により自己負担せずに済むか,あるいは一部しか負担しなくて済むのであり,まさに月払い賃料一本方式と比べて低額の家賃を負担するだけであり,多大なメリットがある。
●6
以上のとおり,更新料を月払い賃料と併用する更新料併用方式の家賃支払い方式にも,一定の合理性があり,社会の多様なニーズに応えるものであり,私的自治や契約自由の原則から,更新料併用方式の家賃支払い方式も認められるべきである。
更新料は,低く設定された月払い賃料と併用されることにより,月払い賃料の補充としての性質を有するものであり,法的には民法601条の賃料の法的性格の側面を有すると言うべきである。また,更新時に支払われるもので,更新後の賃貸借関係を安定させる更新の地位確保及び更新の地位強化の対価たる側面も有するものであある。
従って,更新料条項は,民法の規定に根拠を有し,対価性もあり,民法の規定の適用による場合に比して消費者の権利の制限又は義務の加重ではなく,消費者契約法10条の前段要件には該当しないと言うべきである。またそのことは,前述の学納金の最高裁判例によっても支持されるものである。


第六 消費者契約法10条後段要件について
●1
消費者契約法10条の後段要件は,「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」と定めている。
後段要件については,原告も認めるとおり,その場合とは,事業者の反対利益を考慮してもなお消費者と事業者との間の情報格差,交渉力の格差の是正を図ることが必要であると認められる場合を意味すると解されている。具体的には,当該契約条項によって消費者が受ける不利益と,その条項を無効とすることによって事業者が受ける不利益を衡量し,両者が均衡を失していると認められる場合を意味すると解されている。

●2
注意しなければならないのは,消費者契約法10条後段要件は,原告が準備書面で主張する更新料条項の不合理性という要件ではないということである。原告は,当該契約条項に合理性が少しでもかけていれば,それは即ち消費者契約法10条の後段要件に該当するかのような主張を展開しているが,消費者契約法10条後段要件は,「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」であり,当該契約条項の不合理性ではない。つまり,多少なりとも合理性が欠けるところが仮にあったとしても,民法第1条第2項に反して消費者の利益を一方的に害するものでなければ,消費者契約法10条後段要件には該当せず,同条違反ではないということに注意しなければならない。消費者契約法10条は,当該条項の完全な合理性までは要求していない。

●3
更新料条項を無効にすることによって,事業者が受ける不利益は,契約書で約定合意された更新料が更新時に支払われないか,あるいはすでに支払われた更新料を返還しなければならないことである。本件は更新料返還請求の事案なので,被告は更新料条項を無効とされることによって,過去に徴収された消費者契約法施行以降に受領した更新料5回分50万円を返還しなければならない不利益を被ることになる。このことは,被告は原告に対し,本件建物を賃貸して使用収益させているのに,約定,受領した賃料の補充たる更新料を過去に遡って返還することにより,月払い賃料しか取得できず,その補充部分たる更新料部分を取得・確保できないということを意味する。即ち,被告は,約定した月払い賃料及び更新料という賃料の補充部分の合計金額のうち,一部の月払い賃料部分しか取得・確保できないことになり,約定した収入の減収という不利益を被る。
●4
被告は,受領した更新料について,すでに税務申告も済ませており,その部分の税金を支払っている。また自己の収入として各種経費に使用している。被告は,本件更新料条項が無効とされることにより,継続的賃貸借関係が過去に遡及して一部覆滅せしめられることにより,不測の不利益を受けることになる。
●5
他方,消費者たる原告の不利益はない。原告はもともと借主として更新料条項を承諾して賃貸借契約を締結し,月払い賃料及び更新料を支払い,本件建物を使用収益しているものであって,賃料及び更新料の支払いと本件建物の使用収益には対価性がある。原告は,もともと更新料併用方式の賃料支払方式を承諾している者である。原告は,月払い賃料のほかに,更新時に更新料を支払うことの条件提示を受け,そのことを承諾し,それらを支払うことを前提に入居をしている。
従って,原告は,本件更新料条項を有効とされたとしても,本来支払わなければならない月払い約定賃料の補充部分を更新料として支払うだけのことであり,特段原告としては不利益を被らない。
●6
加えて,原告は,更新料を支払うことにより,月払い賃料を月払い賃料一本方式の賃料よりも低く設定を受けているのであって,本契約条項が消費者契約法10条違反で無効とされると,いわば,更新料条項合意時には原告が予期していなかった,「いいとこ取り」「タダ乗り」「たなぼた利益」を得ることになるのであり,むしろ不当な利益を得ると評すべきものである。
●7
さらに原告は,契約書21条の合意更新をしたことにより,以後1年間については,解約申し入れを受けることがなくなるのであり,解約申し入れという危険そのものを除去できる地位を確保している。
本件建物を含む全体建物は,昭和58年1月31日に新築された物件であり,改築,建替,あるいは賃貸人の自己使用も考えられる物件である。それについて,合意更新後は,法定更新と異なり,被告は原告に対し,1年間正当事由による解約申し入れそのものができなくなるのであり,更新の地位強化がされることは間違いない。
従って,原告は,月払い賃料の補充たる更新料の支払い条項を有効とされても,原告は,更新料条項により更新の地位強化という利益を有しているのであり,更新料の支払いそのものは支出として不利益だとしても,対価性のある有益な支出と言うべきである。
●8
原告は,乙1号証の15条3項を捉えて,合意更新といえども,解約申し入れできる条項があると主張するが,同条項は合理的意思解釈をすれば,法定更新の場合について解約申入期間を確認的に定めた条項に過ぎないものであり,合意更新の場合には適用がない条項であって,その主張は失当である。15条3項は,賃貸借契約終了条項として一般的に見受けられる規定であり,通例借主からは,借地借家法違反で無効と主張される条項である。従って,借地借家法違反でないとしても,少なくとも上記のとおり合理的意思解釈するのが正しい解釈である。
●9
以上のとおり,本件更新料条項について有効とした場合の原告の不利益及び無効とした場合の被告の不利益を比較衡量すると,両者が均衡を失しているとは言えない。原告には賃料の支払義務がもともと存するのであり,それが更新料併用方式という賃料の支払方法に過ぎないもので,本件更新料条項を有効としても,特段不利益は生じない。それどころか,本件更新料条項による更新料支払いにより,解約申し入れを更新後の期間受けることがない地位を獲得しているのであり,更新の地位強化のメリットも受けている。他方,本件更新料条項を無効とした場合には,賃貸人たる被告は,賃貸借契約締結により収入として計算した更新料という賃料の補充部分を失うことにより,条件設定した収入を,契約は守られるという合理的期待に反して得られないという重大不利益を被ることになる。また,遡及的に賃貸借の収支関係を覆滅せしめられることになり不測の不利益を被ることになる。
●10
現在の建物賃貸借関係は,空室率が京都でも10%を大きく超えていると言われ,しかも貸主は,地震,火災,有害物質,犯罪,自殺,債務不履行等々の様々なリスクを抱えている。その中で,約定された賃料の補充部分が更新料条項の無効により取得できないのは,いわば事後的,遡及的に「踏み倒し」にあって予定した収入部分が欠けることになり,貸家賃貸経営そのものが成り立たなくなる事態に追い込まれかねない。建物賃貸借における貸主のリスクは,借主のリスクよりはるかに経済的に大きいものであることが認識され,そのうえでの両者の不利益の比較衡量がなされるべきである。
●11
以上,本件更新料条項を有効とした場合の借主の不利益と同条項を無効とした場合の貸主の不利益を比較衡量すれば,本件更新料条項は消費者の利益を一方的に害することに該当する条項ではないことは明らかであり,この点からも消費者契約法10条に違反しない。


第七 原告の主張に対する反論
●1
原告準備書面は,一見すると精緻な準備書面として記述されているが,詳細に見てみると理由なきものであり,またいわれなき批判の部分が多々存在する。原告準備書面の更新料に関するいくつかの記述に対して,次のとおり反論する。

●2
▼(1)
原告は次のとおり最高裁判決(平成17.12.16判決)を引用する。
「賃借人は,賃貸借契約が終了した場合には,賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務があるところ,賃貸借契約は,賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり,賃借物件の損耗の発生は,賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。それゆえ,建物の賃貸借においては,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は,通常,減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。そうすると,建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは,賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから,賃借人に同義務が認められるためには,少なくとも,賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に記載されているか,仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としてものと認められるなど,その旨の特約(以下「通常損耗補修特約」という。)が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である。」との判決部分について,原告は,「結局は(最高裁は)特約の不当性故に意思解釈において特別な解釈を行っている」と主張している。
▼(2)
しかしながら,この最高裁判決は率直に読むと,賃料以外に賃貸借から生ずる通常損耗について原状回復特約を合意することは有効であることを前提とするものである。その有効性を前提に,その特約を約定するには,賃借人に予期しない特別な負担を課すことになるため,
[1] 賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に記載されている

[2] 仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としてものと認められる

ことが必要と述べているものである。
▼(3)
結局,最高裁判決は,原状回復特約自体は不当とも無効とも言っておらず,その特約認定のための条件を述べているに過ぎないものである。従って,この最高裁判決をもって,原状回復特約の不当性が認められたものとの原告の評価は,この最高裁判決の客観的評価とは言い難いものである。この最高裁判決は,原状回復特約の有効性そのものは認めている判決であり,上記①又は②の条件が満たされれば,原状回復特約(通常損耗補修特約)は有効であると判示した判決と評価すべきである。最高裁は,原状回復特約(通常損耗補修特約)そのものを有効として肯定していることに注目すべきである。
●3
原告は,更新料は貸主にとって大きな利益になり,その実現は借主との地位の不平等性からくる交渉力の格差であると主張する。
▼(1)
しかし,借家更新料条項は,昭和40年代から,日本全国各地で現在に至るまで合意されてきている条項であり,貸主だけの大きな利益であれば,40年間以上も継続合意されるはずのない条項である。更新料物件は,月払い賃料を低く設定されているのであり,貸主にとって月払い賃料が低い部分は不利益となっており,貸主の利益のみになるものではない。
▼(2)
また,現在は戦後の住宅不足の時代とは違い,ストックの時代となり,全国的に貸家物件は10%以上余っており(乙18,19号証),借主優位の現象が生じている。京都でも,場所によっては30%以上空室のマンション・アパートが存在している。
貸主は,現在においては市場原理によって制約されているのであり,不合理な条件を提示すれば市場によって拒否され,空家を抱える状況にある。

▼(3)
更新料条件のない物件も現在においては多数存在する。正確な統計がないのでわからないが,京都でも更新料条件のない物件も半数程度は存在すると推測される。インターネットを見れば,更新料がないことを売りにしている物件案内も存在している。
▼(4)
賃借物件情報は,情報誌・新聞・パンフレット・店頭広告・チラシ・インターネット等で,消費者は容易に手に入れることができる。他の物件との比較も容易にできる状況となっている。
▼(5)
現在においては,借主は,選択する時間と労力をかければ,自分にあった賃借条件の賃借物件を見つけることが容易になっている。更新料条件のない物件を選択することも可能である。

▼(6)
更新料が,その交渉力・情報力の格差により貸主に押し付けられているとの原告の主張は,現在の賃貸状況の実情を正確に把握しない机上の議論であり,失当である。
●4
▼(1)
原告は,管理会社が儲けるために更新料を推進し,本件でも管理会社が支援に来ていると批判するが,そのような評価は事実に反しており,また管理会社を悪と決めつけるもので,失当である。
▼(2)
すでに詳述したように,更新料は賃料支払方式の一方式であり,更新料併用の賃料支払方式とでも評すべきものである。即ち,借主においても,合意した更新料は月額賃料と同じく貸主に対し支払わなければならないとの認識のもとに合意されているものであり,まさに賃料の補充である。更新料は貸主の賃料収入を補充するものであり,貸主の収入であって,管理会社の収入ではない。
▼(3)
契約当事者は貸主であって,管理会社ではない。貸主が最終的には契約条件を決定し,その収益から管理会社に管理料が支払われるに過ぎない。家主は管理会社に管理料を支払うのは,管理を委託しているので当然のことであり,更新料も家主の収入であるのであるから更新料から管理料が支払われる場合もあり得ることである。管理料は毎月々更新料条項の有無に関わらず払わなければならないのであり,更新料との直接の相関関係は存在しない。
▼(4)
貸家経営は,複雑専門化した現代社会にあっては管理会社による管理を必要としている。管理会社は現代的な賃貸借関係では,アメリカ等の例をみるまでもなく社会的に必要とされる存在である。管理の仕事は,物件の維持補修をし,専門的かつ継続的な業務であり,しかも対人関係をこなさなければならず,クレームも多い,骨の折れる仕事である。一般貸主では,契約の締結,物件のメンテナンス,修繕,クレーム処理,家賃等の回収,退去処理,どれをとっても実施困難である。管理会社は,貸主から委託を受け,貸主の業務を補助するものであって,問題が生じた場合,貸主を支援するのはその当然の業務である。本件訴訟において,貸主だけでなく,管理会社社員もその傍聴に来ているのはごく自然のことである。
●5
原告は,「賃料補充説は合意更新の場合にのみ更新料が支払われ,法定更新の場合に更新料は支払われないことについて,全く説明ができないという点からもその不合理性が明らかである」と主張する。
▼(1)
しかしながら,更新料条項は,更新料が賃料の補充の性質を有するものであるから,合意更新の場合だけでなく,法定更新の場合も支払われるべきことは論を待たず,明らかである。
▼(2)
実際には,用いられてきた更新料条項について,明確な文言で記載されているものばかりではなく不明確な文言なものもあったため,文言上不明確な更新料条項の意思解釈がなされた結果,法定更新について更新料支払義務が否定された判例がいくつか出されているのが実情である。従って,一部に法定更新の場合は更新料支払義務がないかのような主張が見られるが,それはあくまでも更新料条項の文言上の問題に過ぎない。現在の更新料特約は文言上も明確化され,次のような文言になっているのが通例である。
「借主は貸主に対し,法定更新・合意更新を問わず,賃貸借契約開始の日から○年経過毎に,更新料として更新直前賃料の○ヶ月分を支払う。」
従って,現在用いられている上記条項からすれば,法定更新の場合も,更新料支払義務は明確に規定されており,法定更新の場合も支払義務はある。
▼(3)
更新料には賃料の補充の側面があり,このことは法定更新,合意更新の場合でも同じであり,この観点からも法定更新の場合にも更新料支払義務が存在すると言える。
▼(4)
従って,原告のこの部分の批判は,法定更新の場合に更新料支払い義務が存在しないとの誤った前提に基づいており失当である。
●6
原告は,全国的には借家契約における更新料は例外的であると主張している。
すでに述べたとおりであるが,更新料支払合意は,人口が集中している関東圏で広く行われているほか,北海道,長野,愛知,京都,福岡,沖縄でも行われている。契約の数からすれば,人口の多い大都市圏で更新料支払合意が行われていることからすれば,かなりの数にのぼることは事実である。仮に,更新料条項が全借家数の10%で行われているとすれば,全借家数は約900万件以上あると言われているので約90万件の契約者数になるし,20%であれれば約180万件の契約者数になる。更新料は例外的という指摘は,更新料条項の実数の把握を明らかに間違っており,失当である
●7
また,原告は更新料が社会的承認を得ていないと主張しているが,昭和40年代から現在に至るまでの間で,生活保護による住宅扶助で更新料補助が認められている点,法の番人たる裁判所での和解や調停の場で更新料条項が活用されている点,公証人役場での公正証書作成等で更新料条項が活用されている点については全く沈黙している。これらの点は,まさに社会的承認の証左であり,原告の更新料が社会的承認を得ていないとの主張は,これまた失当である。原告の主張する更新料を支払った後の返還請求こそ,承諾して支払った正当な代価を事が済んだ後に返還請求するもので,良識ある社会の人々からは社会的支持を得られていない事項である。
●8
原告は,国土交通省の標準契約書でも更新料はないとの主張をしている。
国土交通省の標準契約書は一つの契約書の標準を示すものである。これは,国土交通省が特約条項をすべて標準化することはしていないだけのことである。更新料は前述のとおり,すべての物件について採用されているものではないので,標準化に取り上げられていないことも異とするに値しない。
●9
原告は,旧公庫物件について更新料が規制されていることを主張している。
しかし,旧公庫物件では,旧公庫物件が公的資金を使用して建築されることから,住宅金融公庫法で規制がなされていたものであって,旧公庫物件の規制は,公的資金を投入する観点からの規制であった。本件は旧公庫物件ではなく,公的資金の規制を旧公庫融資対象物件以外にも及ぼすべきとの原告の主張は,旧公庫物件も一般物件も何もかもを混同主張するもので,全くの論点外の指摘である。
●10
原告は,更新料は広告において表示されていないと主張する。
広告表示にない例も見受けられるが,そのような仲介業者は現代の厳しい不動産業者間の競争の中で淘汰されてきている。最近では,募集段階から賃貸物件の案内パンフレット,情報誌などの物件案内に更新料が明記されているものも多く見受けられる。なかには,物件案内に更新料表示がないものも見受けられるが,契約締結前の重要事項説明では契約当事者に必ず説明されている。即ち,宅地建物取引業法35条1項6号では,宅地建物取引業者に対して,更新料については説明を義務付けている。そのため,建物賃貸借においては,ほとんどの場合において,宅地建物取引業者の仲介がなされるため,更新料が契約締結前に義務的説明されている。本件においても,乙7号証において,更新料10万円の説明がなされているのであり,原告もその説明を受け,本件建物賃貸借契約を締結している。
●11
原告は,更新料の徴求は,あまりに欺瞞的であり,詐欺的であり,脱法的であると主張する。
現在の賃貸借において,更新料の設定物件については,更新料についてできるだけ詳しく広告表示がなされるようになってきている。仮に,広告がなされていない場合があるにしても,上記のとおり契約締結前の仲介業者による重要事項説明では必ず更新料の説明がなされている。借家において,昭和40年代から用いられている更新料条項において,その意味がわからないとする人は存在しない。誰もが更新料条項があると言われれば,更新時に更新料という一時金を支払う約定であることは理解しているものである。そのことは,契約前に申込者に告知されているのであるから,申込者としては賃借期間を考え,更新することが予想される場合は,月額賃料と更新料を合計して実質的負担を計算し,賃借の有無を決することにしている。そのことは,どの申込者も行っていることである。更新料が契約前に借主に一切告知されない場合なら,詐欺的,欺瞞的,脱法的と評価される場合があり得るけれども,更新料は重要事項説明対象事項及び契約条件の一つとして契約前に必ず借主に告知されているのであるから,そのような批判は失当である。


第八 本件訴訟の不当性
●1
本件訴訟は,契約締結時及び契約更新時に合意して支払った更新料約束についての,いわば事後的,遡及的踏み倒しとでも評すべき訴訟である。
▼(1)
原告は,本件賃貸借契約締結前に重要事項説明において更新料として更新1年毎に10万円の支払いが必要となる旨説明を受けている。そのうえで,更新料支払いを承諾のうえ,本件賃貸借契約を締結している。
▼(2)
また原告は,更新毎に更新料10万円の記載のある契約更新証書に署名・捺印をし,10万円の更新料支払義務を認めている。さらに原告は,更新毎に平成13年から平成17年の更新時にあたって10万円ずつ5回にわたって合計50万円を,何ら異議を述べることなく支払っている。
▼(3)
原告は,平成18年11月分の賃料1ヶ月分を未払いのまま平成18年11月30日退去し,その未払い賃料を管理会社から請求され,その支払いを免れるため,既払分の更新料50万円全額の返還請求をするに至っている。原告自身は,退去後,滞納賃料の請求を受けるまでは,本件既払い更新料50万円については納得し,異議なく支払ってきたもので,原告に対しても管理会社に対しても,一切返還請求をしていない。原告の更新料返還請求は,まさに自己の滞納賃料の支払請求を免れるための苦し紛れの方便としてもともと始まっているもので,正当な主張ではない。
▼(4)
原告は,契約時においても更新時においても,更新料支払合意をすることにより,更新料支払いをすることについて被告に信頼を与えている。それにもかかわらず,退去後返還請求をするに至っているものであり,原告との約束及び信頼を一方的に裏切っているものであって,信頼関係が必要とされる賃貸借関係当事者として許されるべき態度ではない。


第九 まとめ
●1
現在的状況下では,居住用建物賃貸借の分野は,本来的に消費者契約法の適用になじむ分野ではない。
▼(1)
現在は,住宅不足であり,インターネット・情報誌等での情報獲得手段の乏しかった時代とは,貸主・借主間の情報力・交渉力の関係は全く異なっている。消費者契約法を適用すべき情報力・交渉力の格差は,貸主・借主間においてはもはや存在していない。経済成長,耐久性建物の増加等により借家が過剰に供給され,他方少子化人口減少社会により,借家需要はむしろ減少傾向にあり,空家率は全国平均10%を超えている。
▼(2)
また,貸主に対する規制は,建築基準法,宅建業法その他の法改正により年々強化されてきてきる。貸主は,借主に対し賃貸市場で通常行われている条件設定から逸脱した条件設定をすれば,たちまち空家の増加に悩まされることになっている。特に京都においては,零細な個人貸主も多く,もともと貸主の力が借主よりも強いとは必ずしも言えない状況にある。
▼(3)
他方,借主は現在的状況下では,賃貸借に関する情報をインターネット・情報誌等で短時間に簡単・容易に大量に入手することができるようになっている。借主は,賃貸借情報を収集し,物件相互間の比較を容易に行うことができ,また自己に適した物件を選択できる状況にある。
▼(4)
このように,事業者たる貸主と消費者たる借主との間での情報力・交渉力の格差が乏しいか,あるいは場合によっては逆転している現在の建物賃貸借の分野においては,消費者契約法の拡大適用がなされてはならないし,ましてや更新料条項に消費者契約法10条が適用されてはならない。
▼(5)
建物賃貸借分野での契約条件の規制は,取引の安全等から基本的に市場(マーケット)に委ねられるべきであり,裁判所が事後的に過剰介入してはならない。消費者契約法10条を適用して更新料条項を無効とすることは,契約当事者の自己責任の否定かつ私的自治・契約自由の原則の否定であり,取引の安全を害することになり,認められてはならない。
●2
▼(1)
更新料は昭和40年代から,現在にわたり継続的に都市部を中心に全国的に,しかも民間の当事者だけでなく行政機関,司法機関によっても承認されてきた契約条項,制度である。更新料は,賃料の補充,更新の地位確保又は更新の地位強化の対価としての性格を有するもので,適法・正当な金員である。
▼(2)
更新料については,貸主・借主ともその更新料支払合意時に,借主が更新時に賃借物件を使用継続するために支払わなければならない一時金として共通に認識し,合意している。また,借主は,賃借物件を決定するにあたって,月払い賃料だけでなく更新料も考慮して賃貸条件が自分に適合するかどうかを決定している。従って,更新料は詐欺的,脱法的,欺瞞的金員ではなく,正当な金員である。
▼(3)
更新料は公序良俗に違反しないことは,社会的承認を受けてきたことからして明らかである。
▼(4)
また,消費者契約法が平成13年4月1日施行されているが,更新料条項の消費者契約法10条の該当性については,更新料条項が民法等よりも消費者の権利を制限し義務を加重するものでもなく,また信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものでないから,同条の前段要件,後段要件のいずれにも該当せず,同条違反ではない。
●3
▼(1)
本件訴訟は,原告が,被告との契約上の約束を一方的に裏切り,自己の利益実現のために消費者契約法の拡大適用を主張し,異議なくすでに支払った過去5回分,5年分の更新料の返還請求に及んでいるものであり,契約当事者の信義に反する訴訟でもある。
▼(2)
本件訴訟での原告の請求は,その請求内容・動機・目的・手段においても失当であり,その観点からも絶対に認められてはならない。原告の請求は,良識ある裁判所により不当請求として全面的に棄却されるべきである。

以上

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このページは、が2009年9月 8日 00:01に書いたブログ記事です。

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