2005年1月アーカイブ

 その「とら」は湯の湧く山里でひっそりと暮らしていた。
 才気・美貌とも並ぶものなしと、政宗の寵を受けていたが、先ごろ痘瘡にかかり、快癒はしたものの無数の痘痕が顔にも残った。それを恥じて引きこもり、行方が知れぬよう、父の宗康にも他言無用を頼み込んだ。
 頭巾を深くかぶり、水を汲みに庭先の井戸へ出ると、このあたりでは珍しい馬のいななきが聞こえ、慌てて家の中に身を隠した。
 馬の足音が家の前でとまり、表に声がした。
「鷹狩に参ったが、水を所望したい」
 聞き違え様のない声。
「どうぞ、庭の井戸をお使いくださいませ」
震えながら言うと、礼を言いたいので顔を出せと言う。
 なおもためらっていると、外から戸が開けられ、奥へ逃げるまもなく抱きしめられた。
 とめどなく流れる涙を、政宗がぬぐってくれた。
「『とら』はもうおりませぬ。このような姿と成り果てて、お仕えはいたしかねまする」
「ならば名をかえて仕えればよい。痘痕面はおれも同じだ。痘痕を恥じるのは、おれへの侮辱と同じだぞ」
 政宗の胸に顔をうずめていたとらは、政宗の顔を見上げた。名をかえるのは確かによい吉処になるかもしれない。でも。
「……『ぶち』……?」
 思わず目を泳がせた政宗の手を、とらは思いきりつねりあげた。

 政宗に言わせれば、優れた女性は猫のようなものだ。身体ののびやかさ、かもし出す気品、ときおりのぞかせる野生がなんともいえない。それで、初めの側室につけた通り名が「ねこ」。側室が増えたので「ねこ」を「とら」と改め、さらに「しろ」「たま」と名をつけていった。
「さすがに『みけ』とはつけておらぬぞ」
「……当たり前だ」
 猫といっしょにされる女性たちが気の毒だ、と成実は言う。
「まさか北の方(愛姫)にそのような通り名をつけてはいまいな」
成実の問いに、政宗は首を横に振った。
「あれはめごいから『めご』でよいのだ。それよりも問題は『とら』だ。逃散したとあっては、おれの沽券に関わる」
「だから、猫の名を人につけるのはよしてくれ」
 ほとほと呆れた態で成実が言うので、政宗は少し仕返しをしたくなった。
「人のことが言えるのか」
「は?」
「野菜の名をつけるのも大して違いはなかろう」
 成実の妾の愛称を、「せり」に「すずな」という。正室・亘理氏の名が、「まつ」。それで「たけ」と「うめ」にしようとしたら、あんまりだと叱られ、草の名などがゆかしくてよかろうと言われたので、若菜の名ならば縁起もよかろうと、「せり」「すずな」と名をつけたらしい。
「そこで萩の、千草のとすればゆかしいに」
「若菜を野菜と表現するか、普通」
 成実が悔しそうに言い、政宗は豪快に笑った。
「食うものだろう?」

夫婦祭に投稿しようと思ったネタなのだが、ギャグに走ってしまったので、とりあえずこちらに投下。
飯坂盛衰記が元ネタだが、多少年代は狂ってるかも。設定上は二本松攻略後、摺上原以前。
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「ねこが逃げた」
と、わざわざ成実の屋敷へ出てきて政宗が言ったので、成実はめんくらった。
 政宗は幼時より猫が好きで、部屋にはいつも何匹かが心地よさそうに寝そべっている。一匹消えたといってはよく大騒ぎをしたものだ。
 長じてからは政務軍務に忙しく、もっぱら猫の世話は愛姫やお喜多の役になっているが、根の猫好きは変らないらしい。
「で、どの猫だ」
 成実もまぁ、慣れてはいるから、気を取りなおして尋ねてみた。
「『とら』だ」
「ほぅ」
 政宗は酒を汲みながら、困ったように頭をかく。
「戦でしばらく留守にしておったろう。帰ってみたらおらんのだ。親元の飯坂へも問い合わせてみたが、知らぬの一点張りでな」
「……ちょっと待て。今、飯坂とおしゃったか」
 確かに虎猫が一匹いるのは知っているが、あれは確か、7-8年前に米沢で生まれたはずだ。
「うむ。かといって、他に行くところがあるわけでなし。宗康が隠しているとしか思えんのだ」
 親元? 飯坂宗康? ……と、いうことは。
「ひょっとして、『とら』とは吉岡の局(飯坂氏)のことか……?」
 当たり前だ、と政宗は大きく頷いた。
「で、五郎に頼みなのだが、宗康にそと尋ねてはくれまいか?」
 成実がしばらく黙りこくってしまったせいか、政宗は重ねて
「信夫は飯坂へは道筋じゃ。心当たりの者が通りはせなんだか」
と聞いてきた。
「おれも最近は信夫へは無沙汰だ。飯坂への道ならば、大森の小十郎か杉目へ尋ねたほうがよろしかろう。それよりもお屋形。いやさ次郎どのよ」
と、成実は息をついだ。
「頼むから、側室に紛らわしい愛称をつけるのはやめてくれ」

って、もう4日ですが、どうぞ今年もよろしくお願いいたします。

1-3は例年のごとく、年始でつぶれました。
オトナは短い冬休みでしたが、子どもは11日が始業で長めの冬休み。
それにしても毎年、小売業や飲食業や、年末年始返上の職業の人はエライと思います。

私も今日が御用始めです。
もっとも自宅=職場で、家事しながら仕事してますが、今年は割りとけじめがついたお正月でした。
物件掃除に伝票書き、清算業務と一通りやったもんね。
逆にいえば昨日までは時間が余ってものほほんとしてたわけです。

さて、個人事業者は12月末が年度末ですので、今からメインイベントの確定申告がやってきます。
松が取れると税理士さんにせかされますから、がんばらなくっちゃ……!

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ヨメに来たら賃貸住宅のお世話がくっついてきた! 大家の立場で賃貸裏話を発信中!

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