福岡地裁平成16年8月6日判決 貸主側勝訴の敷金返還訴訟控訴審

| コメント(0) | トラックバック(0)

平成16年(レ)第35号 敷金返還等請求控訴事件(原審・福岡簡易裁判所平成15年(ハ)第30374号)

口頭弁論終結日 平成16年6月4日

判決

控訴人   AAAAA
被控訴人   BBBBB      

主           文

1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す(ただし,原判決中,福岡簡易裁判所平成15年(ハ)第30234号事件に関する部分は,控訴人の訴えの取下げにより失効した。)。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は第一,二審とも被控訴人の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 控訴の趣旨

主文同旨

第2 事案の概要
本件は,控訴人からマンショシの一室を賃借した被控訴人が,控訴人に対して,敷金等22万7900円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審が,被控訴人の請求につき,13万9784円及び遅延損害金を支払う限度でこれを認容したことから,控訴人は,原判決の控訴人敗訴部分の取消しを求めて控訴した。ところで,控訴人は,同敷金返還債務の不存在確認を求めていた(福岡簡易裁判所平成15年(ハ)第30234号事件)が,当審において,同訴えを取り下げた。

1 前提事実
以下の事実は争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。

(1)賃貸借契約の成立

控訴人は,被控訴人との間で,平成11年12月18日,次のとおり建物賃貸借契約を締結し(以下「本件賃貸借契約」という。),その際,本件賃貸借契約における敷金を21万6000円とする旨合意し,被控訴人は控訴人に対して同金額を支払った(甲2)。

ア 対 象 物 件
(以下「本件物件」という。)

イ 賃 貸 期 間
平成11年12月18日から平成12年12月17日まで。
ただし,当事者の一方が他方に対して別段の意思表示をしないときは,同一条件で更に1年間契約が更新されるものとし,更に1年到来以降も同様とする。

ウ 家  賃  等
1か月当たり5万8000円

工 解約予告違約金
賃借人が本件契約の解約申入叫をする場合は退去日(建物の明渡日)前30日以上の期間を置かなければならない。ただし,賃借人は,解約中人日から30日分の家賃等相当額を賃貸人に支払うことにより,即時に本件契約を解除することができる。

オ 保  険  料
賃借人は,火災,漏水,ガス爆発等,損害賠償責任を負う事故を発生させた場合のために,住宅総合保険に加入する。

カ 原状回復の範印
畳の表・裏がえし,襖・障子の張替え,過去に伴う清掃費用については,入居期間が1か月を超えるときは,賃借人が100パーセント負担する。クロスの張替費用については,入居期間が2年超4年以内のときは,賃借人が70パーセントを負担する(以下,併せて「本件記載」という。なお,同記載の解釈については,後記のとおり,当事者間に争いがある。)。

(2)本件賃貸借契約の終了

被控訴人は,平成15年3月26日,控訴人に対し本件賃貸借契約の解約を申し込み,同年4月10日本件物件から退去した。

(3)控訴人は,被控訴人退去後,本件物件について次の費用を支出した。

ア クロス張替費 8万7040円
イ 畳 表 替 費 3万6000円
ウ 襖 貼 替 費 2万0600円
エ カーテンレールエンドキャップ付替費 300円
オ 美 装 費 l万7000円

小    計 18万0940円
消 費 税 8047円

合    計 16万8987円

ところで,上記アないしウは,通常の使用による減価(以下「自然損耗」という。)が生じたことに基づいて支出した費用であり,彼控訴人が負担すべきかどうかにつき,本件記載の解釈等が問題となるのに対し,上記エは,被控訴人が賃借中に喪失した同キャップの付替費であり,上記オは,別紙のとおりの費用であるから,これらの費用払 いずれも,被控訴人が負担すべき原状回復費用に当たると認められる(甲7,証人DDDD,弁論の全趣旨)。
なお,上記ウのうち,和室の襖1枚分の取替費用1400円は,被控訴人の毀損に基づくものであるから,本件記載の解釈等のいかんにかかわらず,被控訴人が負担すべき原状回復費用に当たる。

(4)控訴人と被控訴人との問には,本件賃貸借契約の終了に伴い,上記(3)の費用のほか,次の費用が先生した。

ア 控訴人が被控訴人に支払う費用として,平成15年4月分の過払日割家賃3万9600円及び被控訴人が支払った住宅総合保険の保険料の保険解約金4600円。
イ 被控訴人が控訴人に支払う費用として,水道清算金3900円及び解約予告違約金2万7000円。

(5)控訴人は,平成15年12月18日の原審口頭弁論期日において,上記(3)記載の費用のうち14万1569円(後記2(1)参照)並びに上記(4)イ記載の水道清算金3900円及び解約予告違約金2万7000円について,被控訴人の控訴人に対する敷金21万8000円の返還請求権並びに上記(4)ア記載の過払日割家賃3万9600円及び保険解約金4600円と対当額で相殺するとの意思表示をした。

(6)控訴人は,被控訴人に対し,平成15年11月21日,(5)で相殺した残額に当たる8万7731円を支払った(甲6)。

2 主たる争点

本件の主たる争点は,前記1(3)のアないしウの自然損耗につき控訴人が支出した費用を被控訴人が負担しなければならないか否かである。

(1)被控訴人が負担すべき原状回復の範囲に,自然頂耗分も含まれるか否か

(控訴人の主張)
本件記載は,自然損耗であっても,原状回復の内容ヒして,賃借人に負担させる旨の特約(以下「本件特約」という。)を定めたものであり,このこ
とは,仲介業着である「○○不動産」の代表者であるCCCC(以下「C」という。)が,本件賃貸借契約の際,本件賃貸借契約の契約書(以下「本件契約書」という。)の別表を示しながら,説明している。
そして,本件特約によれば,上記第2の1(3)のうち,被控訴人が負担すべき金額は,アのクロス張替費の70パーセントに当たる6万0928円と,イないしオの各金額とを合計した額である13万4828円に消費税6741円を加えた額である14万1569円となる。

(被控訴人の主張)
原状回復の範囲は,平成10年3月に旧建設省が公表した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(以下「本件ガイドライン」という。)で定義されているとおり,「賃借人の故意・過失,善管注意義務違反,その他通常の使用を超えるような使用による損耗等を復旧すること」というものである。したがって,本件記載は,自然損耗分を原状回復の内容として貸借人に負担させる旨を定めたものではない。そして,被控訴人は,本件賃貸借契約締結の際,控訴人主張のような説明を受けておらず,単に,本件契約書の別表を一時開示され「原状回復とはこの表によるものとします。」という,ロ頭による説明を受けたのみであった。
自然損耗分を原状回復の内容として賃借人に負担させない以上 敷金から差し引かれる金額は,被控訴人が毀損した襖1枚の原状回復費用である1400円となる。したがって,控訴人が被控訴人に返還すべき金額は敷金21万6000円から1400円を差し引いた21万4600円及び上記1(4)ア記載の各金額を合計した金額から,被控訴人が負担すべき同イ記載の各金額を差し引いた額である22万7900円となる。

(2)本件特約の有効性

(被控訴人の主張)

ア 本件ガイドラインは,福岡県宅地建物協会が採用し,仲介業着である△△不動産株式会社が同協会に加盟していること,本件契約書が同協会作成の雛形であることを考えれば,本件特約の有効性を判断する基準として採用されるべきである。そして,本件ガイドラインにてらせば,本件特約は無効である。
イ 本件賃貸借契約は,平成13年12月に自動更新された際に,消費者契約法(平成13年4月1日施行)が適用されており,本件特約は,賃借人の不利益となるので,同法10条に反し無効である。

(控訴人の主張)

ア 本件ガイドラインに法的拘束力はないから,本件特約が本件ガイドラインによって無効となることはない。
仮に,本件ガイドラインに法的拘束力が認められるとしても,本件特約は,本件ガイドラインに照らしても有効である。

イ 本件賃貸借契約は,消費者契約法施行以前に締結されているので,同法の適用はない。
仮に,同法の適用があるとしても,本件特約は,民法1条2項に規定する信義則に違反するものではないから,消費者契約法10条に反しない。

第3 争点に対する判断

(1)争点(1)(被控訴人が負担すべき原状回復の範囲に,自然損耗分も含めるか否か)について

証拠(甲2)によれば,本件契約書の19条1項は,「原状回復の範囲は,別表1及び別表2に定める負担区分によるものとする。」と親定して,原状回 復の範囲については,別表1及び同2で定めているところ,本件記載は,別表1の「費用負担区分表」において記載されていることが認められる。しかしながら,この「費用負担区分表」にいう「費用」という文言は,多義的であって,この文言から控訴人の主張を認めることはできず,その他,本件契約書(甲 2)の記載からも,本件記載を控訴人主張のように,自然損耗分を含む趣旨と解することはできない。
しかしながら,証人DDDDの証言及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人並びに仲介業着である△△不動産株式会社及び「○○不動産」は,いずれも,本件記載は自然損耗分を含む趣旨と解して,本件賃貸借契約を締結ないし仲介していること,Cは,本件賃貸借契約締結以前の平成11年12月10日前後,被控訴人に対して,本件契約書の19条並びに別表1及び同2を見せて,本件記載の内容を説明しているが,その際,被控訴人から,敷金はどれくらい返ってくるのかと開かれたことに対して,Cは,別表1を見せながら,
「畳,襖は100パーセント替える。クロスも概ね香えるので,賃料4か月分の敷金のうち,3か月分くらいはかかるだろうから,1か月分戻ればいいほうではないか。」
などと具体的に説明したこと及びその後被控訴人は,上記説明に対して異議を唱えることなく本件賃貸借契約を締結したことが認められる。
そうすると,自然損耗分を含まないのであれば,畳・襖を100パーセント替えたり,クロスを概ね替えることはないのであるから,Cの上記説明により,被控訴人は,本件記載が,自然損耗を原状回復の内容として賃借人に負担 させる旨の本件特約を定めたものであることを認識したものと認められるところ,その後,被控訴人は,この説明に対して異議を唱えることなく本件賃貸借契約を締結したのであるから,被控訴人は,本件記載を,控訴人主張のとおり,本件特約を定めたものとして,本件賃貸借契約締結の意思表示をしたものというべきである。

(2)争点(2)(本件特約の有効性)について

ア 本件ガイドラインは,そもそもその内容に反する私法上の条項を無効にするだけの効力を有するものではなく,たとえ本件ガイドラインの趣旨に則していなかったとしても,本件特約の私法上の効力を奪うことはできないとい
うべきである。
したがって,本件ガイドライン違反を理由とする本件特約無効の主張は理由がない。

イ 次に,被控訴人は,本件賃貸借契約が平成13年12月に自動更新された 際に,消費者契約法が適用されていると主張するが,消費者契紛法が適用さ れるためには,控訴人が,事業として又は事業のために契約の当事者となる 場合である必要があり,また,同法により無効というためには,民法1条2項(信義誠実の原則)に反して消費者の利益を一方的に害する等の要件を備えることが必要となるところ,そもそも,同法は平成13年4月1日以後に締結された消費者契約について適用される(同法附則)が,本件賃貸借契約は同日より以前に締結されているものであって,平成13年12月の自動更新は従前の契約の効力によってなされたにすぎず,その際,新たな契約は締結されていないのであるから,同法の適用はない。

(3)結論

以上によれば,前記1(a)のアないしウの費用は,本件特約によって,被控訴人が負担することになるから,控訴人の敷金返還債務は,控訴人の相殺の意思表示及び残額支払によって消滅していると認められる。
よって,本件控訴は理由があるから,原判決(ただし,控訴人の訴え取り下げにより,福岡簡易裁判所平成15年(ハ)第30234号事件に関する部分は失効した。)中の控訴人敗訴部分を取り消した上,被控訴人の請求を棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条2項,61条を適用して,主文のとおり判決する。
福岡地方裁判所第3民事部

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://www.o-yasan.jp/mt/mt-tb.cgi/177

コメントする

管理人

ヨメに来たら賃貸住宅のお世話がくっついてきた! 大家の立場で賃貸裏話を発信中!

Photo

  • 2011 04 30_0016.JPG
  • xy3qi.jpg
  • 80tqm.jpg
  • 67806296.jpg
  • ua1wv.jpg
  • driwf.jpg
  • 2010 10 10_9697.jpg
  • _S8O0642.jpg
  • 2010 10 10_9694.jpg
  • _S8O0096.jpg

このブログ記事について

このページは、が2004年10月 6日 23:41に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「福岡簡裁平成16年1月29日判決 借主勝訴の敷金返還請求」です。

次のブログ記事は「改装驀進」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。